1.利用者の視点に立つ
福祉用具に携わる者の役割として、一番重要なことは利用する人にとって役に立つということと、有益であるということである。ひとりひとり異なる様々な要望や期待に対して、どのように対応し顧客満足を提供できるかが即ち、われわれの社会的存在価値があるかどうかということに繋がる。当然のことではあるが、高齢者や障害者といった社会的弱者と呼ばれる人達を対象とする福祉業界に携わる者が、社会的に担っている役割・意義・責任は極めて大きい。
最近、福祉業界でもCS(顧客満足度)という言葉がようやく聞かれるようになったが、まだまだその点においては未発達であり遅れているのが現状である。
@消費者の福祉用具供給者に対する期待
通産省の福祉用具産業懇談会の福祉用具政策‘99によると、一般の消費者が流通事業者に対して求めているのは以下のことと報告している。
・ 福祉用具の適正価格での供給。
・ 試用や試着できたり試供品配布により、消費者本人が納得して購入できる。
・ 商品配送や機器の設置や定期点検等のアフターサービスの良さ。
・ 福祉用具に精通する専門家の存在。
・ 気軽に相談できる雰囲気、詳しい説明、訪問相談などのサービスの良さ。
A顧客価値とは
・一箇所で全て賄える。 ・クレーム、意見が言える。対処してくれる。
・親しみやすい、親切で安心。 ・アフターサービスが充実している。
・きめ細やかな対応、配慮。 ・正確な情報が豊富にある。
・迅速かつ正確である。
・対話する機会が多い。
・適正な価格。 ・プライバシー保護への配慮。
・専門知識があり信頼できる。 ・快適、安全になる。
留意すべきこととして、利用者の要望通りに対応したつもりでもクレームが発生することが度々ある。最終的には、勿論利用者の判断が優先するが、それまでの過程においては、福祉用具に携わるものは専門相談員として、解消すべき問題が何なのかをプロならではの見識や蓄積してきたノウハウにより伝えていくべきである。あらゆる観点から、その人のために役立つこと、生活の質が向上することを考えることが重要である。
2.よりよい福祉用具の普及実現
利用者からの情報を活かし、情報を集約し正しい情報を伝える
@情報の収集
利用者や家族と直接、接触する事が多い福祉従事者においては、利用者や家族または携わっている人々から様々な情報を受け取りやすい位置にいる。情報とは、ニーズ・クレームであったり、時にはアイデアや工夫・知恵であったりする。
これらの情報を集約し、他の利用者にも提供することにより、いままでの肉体的・精神的疲労が軽減され役立つこともある。用具では補えない部分の支援も可能となる。
A情報の発信
福祉用具をより利用者にとって使いやすく役立つものにするため、また事故や不適合をなくすため、利用者等からのニーズ・クレームを供給サイドであるメーカー・卸に伝えることは、安全性の確保や品質向上につながり製品改良や新製品の開発に活かされていく。
また、利用者等との信頼関係も深まり、より身近な存在となっていく。
B情報の受信
メーカー等へ情報を発信するだけでなく、メーカー・卸・小売店から福祉用具に関しての使い方や選び方・効果、効力・製品寿命・クレーム・事故情報・新製品の動向等の情報が入ってくるようにして、それぞれの利用者のニーズに対応できるような体制をとっておきたい。
利用者と供給サイドとの間に入り、どちらもが伝えきれない部分を掘り起こしたり、吸収したりして双方にフィードバックしていくことが、また大きな存在価値でもある。
Cよい事業者と付き合う
いわゆる介護ショップと呼ばれる事業者のなかにも、さまざまな業者があります。利用者本位に用具をきちんと適合する事業者から、自分のところの利益本位で用具を供給する事業者まで、利用者に知識や判断基準がないためその見分け方は難しいが、いくつか見分け方のポイントを紹介しておくと、以下Dのようになる。
Dよい商品を選定する
実際に効果をあげて利用者に喜ばれている商品、完成度が高く安心してしようできる商品等、評価の高い商品から、クレームが多く危険な商品までの情報は良い事業者はちゃんと知っていて、出来る限り良い商品を提供する姿勢でいる。良い悪いの判断がつかない場合、事業者から情報を得て、良い商品を普及させることに努めたい。
・悪い業者は、安くて性能が不十分な用具を平気ですすめるが、よい業者は多少高くても役に立つことをきちんと説明する。(無理強いは決してしない。)
・よい業者は用具の使い方や、用具の知識、効果、注意事項、等をよく知っており、こちらから言わなくてもきちんと説明がある。福祉用具の大切さと怖さを知っている。
・よい業者は、福祉用具の範囲内である限り、とことんまで相談にのってくれる。
・仕入原価が安い商品を高く売る。 ・値引き率が良いがアフターサービスがない。
3.福祉用具によるミスマッチ(不適合)・事故をなくす。
◎福祉用具とは
☆本人および家族の不便さを解消し、安全性を確保
☆効果が目に見える
☆限定された目的を果たすもの。(万能商品ではない)
☆誰にでも、どこででも使えるものではない。
☆同じ商品であっても使用する人によって効果が異なる。(使えない場合もある)
☆有効に使うためには、知識・技術を要する。
上記に挙げた項目に対する認識が欠落している事が、福祉用具の選定を曖昧にしている。
選定がいい加減になると、ミスマッチ(不適合)や事故が起こりやすくなる。
福祉用具と利用者とのミスマッチ(不適合)を防ぎ、福祉用具による事故をゼロに近づける。
☆ミスマッチの原因
@ 利用者本人が選択したり、決定することができない。(寝たきり・痴呆症の場合等)
A 利用者が費用負担者でない。(家族が負担する場合が多い)
B 専門職の相談・アドバイスを受けずにまたは、専門職員が少なく、相談をうけられなくて利用者が自分で選択した場合。
C 専門相談員が利用者のADL(日常生活自立度)を確認・把握できない場合。
D 専門相談員自身に知識がない場合。
E 利用者のADLや身体機能の変化が著しい場合に、症状の予測ができず現状チェックで購入した場合。
F 用具の情報が正確に伝わらず、正しい使い方がなされていない場合。
G カタログ・パンフレット情報では用具の機能や用途を理解できない。
H 新製品の発売も多く、供給側が個々の商品を理解するのに時間がかかる。
I 展示場が少なく、商品を見たり試したりできない。
J メーカー側の福祉用具に対する認識不足、品質管理の甘さ。
ミスマッチによる事故は確認できただけでも最近10年間に235件発生している。その内、死亡や大怪我をしたケースは161件に上っている。(テクノエイド協会調べ)
報告されていない事故については、この何十倍もあると推測される。
☆ 利用者や家族にとって最適な福祉用具の選定を行うことは最も基本的なことであり、最も重要なことである。
まとめ
◎ 福祉用具に携わる者としての役割
1.利用者の視点に立つ
2.より良い福祉用具の普及実現
3.福祉用具によるミスマッチ(不適合)・事故をなくす